肉森の「返事だけは良し!」

了解です!頑張ります!大丈夫です!

悲しい漫研部員

少年は高校時代、漫研に入っていた。

自身を含め10人くらいの部員がいたが、男は彼と部長の2人だけだった。

今考えるとステキな環境だが、部活に行っても女子達は延々と腐女子トーク(当時そんな言葉は知らなかったけど)をしていて、彼はそれがちょっと苦手だった。

部長は典型的なオタクキャラだった。
なかなか話も合わず、結局少年は部活中、ずっと一人でイラストを描いていた。

夏休み、漫研のみんなで合宿に行く事が決まった。
修学旅行などと違って、漫画を描くという目的のために仲間と泊まりがけで出掛けるなど初めての事だったので、彼は楽しみだった。

前日に漫画道具をひとつひとつ確認し、インクがこぼれないようにビニール袋に入れたりして、準備万端で当日を迎えた。

しっかり朝御飯を食べ、家を出た。
いざ、待ち合わせ場所へ。

しかし、彼は絶望的に方向音痴だった。
待ち合わせ場所にたどり着けない。

確か大通り沿いのどこぞのバス停だった。
そんなに分かりにくい場所ではなかったはずだが、なんとなくわかる程度の認識で出発したようだった。

歩けども歩けども、仲間が集まっている場所は見当たらない。

そして待ち合わせ時間が過ぎる。
当時は携帯電話など無い。
約束の時間を30分程過ぎ、少年は諦めた。
とりあえず公衆電話から自宅に電話してみた。

「さっき先生から、アナタが来ないって電話があった。これ以上遅れても迷惑かかるからどうぞ先に行って下さい、って言っておいた」
と母。

こうして初の漫研合宿でおいてけぼりを食らった少年。

これがきっかけとなり、彼はその後、部活に参加しなくなった。
授業が終わるとさっさと家に帰り、一人黙々と漫画を描いていた。

ゲームをするか漫画を描くのが一番の楽しみだった。
ファイナルファンタジーの新作が出たら、学校をサボってプレイし、誰よりも早くクリアしてやる、と躍起になっていた。

高校の友達といえば3人程しかいなかった。
その友達とゲーセンに行ったりするのも、なんだか無駄な時間に思えてしまう事があった。
その位、彼の心は荒んでいた。

卒業アルバムに載せる、漫研の集合写真も拒否した。
学校もしょっちゅうサボるようになり、最終的には卒業式までサボった。



正直言って高校生活にいい想い出など一つも思い当たらない。

もし昔に戻れるとしたら、高校時代に戻って、青春をエンジョイしたい、などと彼はたまに思う事もあった。

しかし、あの暗黒時代があってこそ、今の自分があるのだと、34のおっさんは前向きに考えられるようになった。